テイコク

岐阜県 調査・設計・管理・測量・開発のテイコク

WWW を検索 サイト内を検索
google
HOME > TEIKOKUコラム一覧 > 私のライフワーク

私のライフワーク 名古屋女子大学教授  駒田 格知 先生

名古屋女子大学教授 駒田 格知先生

 今から40年程前に、大学院を修了して朝日大学の解剖学研究室に就職しました。当時は、何を一生のテーマに、いわゆるライフワークはどうするかを一所懸命に思案していたように思います。丁度、長良川河口堰等の河川構造物の建設計画があり、自然環境をどう考えるかについてや、様々な人工的な物質(農薬、洗剤等)による環境破壊に関連した魚類等の奇形の発生等が世間を賑わしていた時代でした。色々と悩んだ末に選んだテーマは、「魚類の異常成長に関する研究」でした。その数年前から、自分の生活している周辺の環境、すなわち、木曽三川が近いという有利な点とアユ等の人工養殖が開始されているという社会的背景がありました。私はこれらに少なからず関与することができ、自然河川での奇形魚の出現の多さに加えて人工孵化養殖魚の中に形態異常の魚が何故このように多発するのかが頭から離れませんでした。
 この様な状況下で、当時、「先天異常の研究」で世界をリードしていた京都大学・医学部解剖学研究室(西村教授)で研究生活を送ることになりました。そこでのテーマは「下等脊椎動物と哺乳類の形態異常の発現に関する比較解剖学的研究」でした。このようにして、私のライフワークは決定されたように思います。息の長い研究が開始されたのです。まず、対象とした魚類はアユでした。何はともあれ、アユはどのような魚か?生態、形態、生理、遺伝等あらゆる面から追求し、その生活史が判らないとこの疑問には答えられません。1970年代には、アユは、国内はおろか世界的にも研究論文の多い動物の代表で、数千編を超えていました。「今更、アユで何をするの…」と周囲はやや冷やかでした。しかし、何を見ても、どのように調べても、何故アユに形態異常が多いのかを考える資料は見当たりませんでした。そこで、これは自分で進めるしかないと考えて、野外・自然河川での発現状況を調べる一方、研究室内では、特に異常の多い口部・歯系や骨格系の発育・成長について本格的に研究を始めました。同時に魚類の形態異常、特に骨格系異常の判断基準がなかったので、それの作成にも取り組みました。これらの研究のその根っこは、異常は正常の理解があって初めて前に進むということでした。
 その頃、日本魚類学会長から「この様な研究は大学でなければ出来ません。…」という内容の手紙を頂きました。どういうことか?と考えました。今も考えていますが、私なりの結論は、「時間を越えた研究の継続…」でした。それ以来、研究対象とした魚類の種類はワカサギ、カジカ、アジメドジョウ、ブルーギル等と拡大していきましたが、基本姿勢である「魚を知る」ことに40年間振れはありません。魚のことは、その魚の河川での生活様式を見ないと判りません。河川で一種のみを見ていても魚類のことは判りません。他の魚類や昆虫等、河川でのあらゆる現象をみる必要があります。と、いうことで、今もなお河川へ出かけています。私は心の中でずっと思ってきたことがあります。それは、私の得てきた知見・情報は決して自分のみのものではなく、何らかの形で社会へ還元しなければならない、世の役に立つようにしていかなければならないということです。45歳を過ぎた頃から大学以外の色々な場所で発言することにしてきました。
 最近、帝国建設コンサルタントの方から、「建設関連の事業を進める時に、自然のことをもっともっと考えて、生物の生活に配慮したい」という話を聞きました。私の持っている40年間に得てきた情報と経験が生かされるのではないか、と喜んでいます。さらにそれらを、何とかして次世代に引き継ぎたいと思っています。この年になっても、まだやりたいことはあります。例えば、「アユを中心にした魚類の摂餌適応」に関しては総論を書きましたが、「魚類の異常成長」については未だ書いていないので、何とかしたいと思っています。そして、アユはどういう生物か?が自分の思っている様にまとめ切れるか…などです。まだまだ、アユやその他の身近な魚類から様々な情報を入手しなければならないと感じています。そして、生物とは何か?遺伝と環境の関係は?と考えていきますと、何のことはない、40年前の生物学を始めたときの疑問に立ち帰り、もがいています。

ブルーギルのレントゲン写真
ブルーギルのレントゲン写真
調査風景
調査風景